研究概要 |
当該研究の本年度の研究実施計画に挙げた2つの項目について,以下のような知見が得られた. まずLefschetzファイバー空間の符号数の振舞いに関しては,計画に挙げた方法のうちの2番目のもの,すなわち符号数コサイクルと写像類群の有限表示を用いるアプローチを共同研究者の永見誠二氏(摂南大非常勤)と共に実行した.その結果,球面上のLefschetzファイバー空間の符号数はそのモノドロミーに出現する関係子の仮想的な符号数を足し合わせることによって回復されることがわかった.S.Gervais, F.Luoによる写像類群の無限表示には関係子として全てのbraid, chain, lantern (star)関係子が必要であるが,我々はこれら関係子に対する仮想符号数を全て決定し,さらにその値が関係子の曲面内での位置に依存しないことを示した.このことにより,Lefschetzファイバー空間のモノドロミーがDehnツイストのpositive wordとして与えられれば,その中の基本的な関係子の組成を分析することによりたちどころに符号数の値が求められるようになった. 次に,Lefschetzファイバー空間の具体例の構成については,計画に挙げた方法のうちの1番目と2番目のもの,すなわちT.Fullerによる種数3の非超楕円的な例の高種数への一般化とlantern関係子を組み込んだモノドロミーをもつLefschetzファイバー空間の構成を双方とも成功させた.(これらも永見氏との共同研究による.)さらに代数曲面の専門家である今野一宏氏(大阪大学)との研究交流により,我々の構成した例の殆ど全てが非正則なファイバー空間であることが確かめられた.2つの部分のファイバー和に分解しないような非正則Lefschetzファイバー空間の具体例は従来,先のFullerの例しか知られておらず,我々め新しい例はこのようなものが多数存在することを実証した.またこの研究過程において,一般型代数曲面におけるスロープ不等式がsmooth categoryにおいても成り立つであろうというR.Hainの予想についてのいくつかの状況証拠を得ることができた. 以上の研究成果は永見氏との共著論文にまとめ,現在専門誌に投稿中である. 研究調査については共同研究者であるD.Kotschick(ミュンヘン大学)を当初の予定通り訪問し,Lefschetzファイバー空間の研究から派生した写像類群の擬準同型に関して,pseudo-Anosov classにおける振舞いについて議論した.これについては現在共著の論文を準備中であり,平成16年度も研究を継続する. また足利正氏(東北学院大学)と共著の論説が日本数学会誌『数学』に掲載された.
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