当該研究の『平成16年度科学研究費補助金交付申請書』の中の「研究実施計画」において挙げた、新しい方法の模索のための知識の修得に関しては、次のようなことを実行した。 まず、計画に挙げた4つの方向のうち、より位相幾何的な第2番目と第3番目の方向を優先的に押し進めた。第2番目の分岐被覆の方法の探究に関しては、永見誠二氏(摂南大学非常勤講師)とFullerの論文について勉強会を開き、その方法の有効性と限界について議論をした。また、Aurouxによる4次元シンプレクティック多様体のカスプつき分岐被覆についても同氏と様々な意見を交換した。4次元多様体の分岐被覆を記述する重要なテクニックとしてはKirby図式があるが、これについては安井弘一氏(大阪大学大学院生)と一緒にGompfとStipsiczによる教科書を丹念に読む機会に恵まれた。この本には基礎的な事柄が様々な角度から丁寧に記述されており、4次元多様体を「見る」ことについてのより良い理解を得ることができ、とても有意義であった。以上の他に、Moishezon-Teicherのbraid monodromy techniqueや複素射影平面内の曲線のシンプレクティック・アイソトピーの問題などを学ぶことにより、超楕円的なLefschetzファイバー空間の構成や分類についての新たな知見が得られるものと思われる。第3番目の森田茂之氏(東京大学)の理論の応用については、同氏のいくつかの論文を読むことができたものの、時間の制約もあり、実際に高次の森田-Mumford類や様々なコサイクルを4次元のトポロジーに応用するには至らなかった。これについては次年度の研究に委ねられるが、特にLefschetzファイバー空間への応用に限って言えば、特異ファイバーの存在を如何に回避あるいは克服するかが鍵となるものと思われる。
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