曲面上の錐状特異点をもつ平坦構造のモジュライ空間の研究に関して、今年度は超楕円曲線のタイヒミュラー空間の幾何についての研究を行った。主結果は、平面上の多角形の相似類全体の空間と超楕円曲線のタイヒミュラー空間および2次元球面上の錐点をもつユークリッド構造のモジュライ空間という3つの空間の間の同型を得たことである。 平面上のn角形とそれをπ回転させてできる多角形との和に対し、対応する辺を平行移動で同一視すると、種数[(n-1)/2]の閉曲面が得られる。この閉曲面は平面上の複素構造から自然に誘導される複素構造を許容するが、この構成から特に正則な対合をもつので超楕円曲線である。また、複素平面上の自然な正則1次微分形式からこの超楕円曲線にはn-4位の零点を1つもつ正則1次微分形式が誘導され、さらにそれはその錐状特異点付きの曲面上のユークリッド構造を誘導する。また、このようにして得られた平坦構造付きの超楕円曲線の対合による作用による商空間は、複素射影直線上のn個の錐角πの錐状特異点と1個の錐角(n-3)πの錐状特異点をもつユークリッド構造を与える。以上が、平面上の多角形の相似類と、曲面上の錐状特異点をもつ平坦構造の空間との対応であり、その中継をなすものが2次元球面上の錐点をもつユークリッド構造のモジュライ空間である。 2次元球面上の錐点をもつユークリッド構造のモジュライ空間の幾何について、面積形式の符号からある計量が得られた。これは上の対応により、超楕円曲面のタイヒミュラー空間上の距離を誘導するが、この距離と既存の距離との間の関係付けを来年度の課題としている。
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