研究概要 |
今年度の研究実績の概要は以下のとおりである: 定スカラー曲率の正定値ケーラー計量の存在に対する障害である板東・カラビ・二木指標は,適当な条件のもとで,その適用範囲を不定値の場合まで拡張できることが知られている(以下では,簡単のため,一般化されたBCF指標と呼ぶ).今年度は,定スカラー曲率の不定値ケーラー計量の存在問題に関連して,空間を限定して一般化されたBCF指標の具体的な計算について考察した.具体的には,ヒルツェブルフ曲面上の全スカラー曲率平坦な不定値ケーラー計量が定めるケーラー類について,一般化されたBCF指標の具体的な値の計算を,正定値の場合に行われている三種の方法にもとづいて実行することを試みた.第一の方法は,一般化されたBCF指標の定義にしたがって直接積分計算を行う方法であり,第二の方法は,ルブラン-ジンガーなどが線織面上の正定値ケーラー計量およびファイバーに沿った正則C^★-作用から定まる正則ベクトル場に対して用いた方法の類似であり,第三の方法は,ヒルツェブルフ曲面をトーリック多様体とみなし、その上の代数的トーラスの作用が定める正則ベクトル場について,組み合わせ的な情報から計算する中川の公式を使う方法である.次数が1の場合,上記のいずれの方法によっても実際に等しい計算値を得られることを示した.このような計算の系として,次数1のヒルツェブルフ曲面(複素射影平面の一点ブローアップ)は,全スカラー曲率が平坦な不定値ケーラー計量を許容するがスカラー平坦ケーラー計量は持たないようなコンパクト複素曲面の例を与えることが分かった.
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