コンパクト複素曲面におけるスカラー平坦(自己双対)不定値ケーラー計量の存在問題に関連して、ある種の対称性を仮定すると、全スカラー曲率0の不定値ケーラー計量を許容するコンパクト複素曲面は、ヒルツェブルフ曲面に双正則でなければならないことが示されている。さらに、二木-満渕が提示したスカラー曲率一定の(不定値)ケーラー計量の存在に対する障害である「一般化された板東・カラビ・二木不変量」を計算することにより、ランクが1以上のヒルツェブルフ曲面はスカラー平坦不定値ケーラー計量を許容しないことが証明されている([1])。そこで本年度は、ヒルツェブルフ曲面上において、スカラー平坦(すなわちスカラー曲率が恒等的に零で一定)という条件を、単にスカラー曲率一定という条件まで緩めた状況を考察し、ケーラー計量の符号数によらない形で類似の結果を得ることができた。すなわち、スカラー曲率一定のケーラー計量(不定値でも正定値でもよい)を許容するヒルツェブルフ曲面は、ランクが0でなければならないこと、つまり複素射影直線の直積に双正則な場合に限ることを、(一般化された)板東・カラビ・二木不変量を具体的に計算することにより示した(投稿準備中)。その際、ヒルツェブルフ曲面をトーリック多様体とみなし、その組合せ的な情報で板東・カラビ・二木不変量を表示する中川の公式を用いて、ケーラー類の候補となるコホモロジー類毎に計算を実行した。また、コンパクト複素曲面上のスカラー曲率一定の不定値ケーラー計量(定スカラー曲率不定値ケーラー計量)の存在問題に関わる結果を整理し、研究すべき今後の問題を具体的に提示した(プレプリント)。
|