本研究のねらいは、自然現象や社会現象における異常の発生を、定常性の崩れとしてとらえ、これに基づき時系列の異常の検出を行う手法に関して、定常性の理論をより精密化することにある。とりわけ、定常過程(弱定常過程、および更に広義での定常過程)の幾何学的な特性について理論的に詳しく調べることで、異常の検出の精度を向上させることを目指した。 昨年度までの研究において、決定性の強い時系列(背後に存在する確率過程が退化している時系列)の定常性についてのデータ解析と、それを踏まえた退化した確率過程に対する理論的な解析を進めた。本年度の研究では、それらを整理すると共に、新たにスペクトル分解の視点からの理論的な解析を加えた。そして、退化した一次元定常過程のある種の標準表現を与えた。これにより、退化した離散時間確率過程に対して、ウエイト変換と呼ばれる変換に基づく解析、一般逆行列による解析、そしてスペクトル分解による解析という具合に、3種類の互いに相補的な解析が可能となった。 それを踏まえ、具体例として、最も単純な退化確率過程の1つである正弦波に付随する確率過程や、カオス写像の典型的な例であるテント写像に付随する確率過程を扱った。そして、それらの時間発展を記述する時間域や周波数域での方程式を導いた。さらに、応用と直接結びつく例として、ブラインド音源分離問題との関係を調べた。 一方、これらの理論的な研究成果を実際のデータ解析に反映させるため、昨年度までに作成した計算機プログラムの改良に取り組んだ。そして、本研究のまとめとして、人工的に発生させた時系列、および地震波、株価、金利などの実データの解析を再度行い、改良したプログラムの有用性を確認した。
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