研究概要 |
まず微分作用素の安定性に関しては,微分方程式y'(t)+p(t)y(t)+q(t)=0を考え,この方程式に対応する微分作用素(Tf)(t)=f(t)+p(t)f(t)+q(t)がHyers-Ulam-Rassias stabilityをもつことを示した.この結果は既出のT.Miura, S.-M.Jung and S.-E.Takahasiの定理を一般化するとともに,さらにより簡単な証明によって示されることを述べた.さらに微分作用素よりも広い,Hilbert空間上の閉作用素に対しては,Hyers-Ulamの意味での安定性が成り立つための,いくつかの必要十分条件を与え,安定性に関する最良定数を決定した.この結果は既に知られている,Banach空間上の有界作用素がHyers-Ulamの意味で安定性を有するための必要十分条件が,空間をHilbert空間に限定すれば,実は非有界作用素に対してもそのまま安定性を特徴付ける条件になることを示している.Banach空間上の有界作用素に対しては,安定性の最良定数が存在しない例が知られている.したがって非有界作用素に対しても安定性の最良定数が存在することは期待できないが,Hilbert空間上の作用素であれば必ず最良定数が存在し,その定数がある種の逆写像の作用素ノルム,あるいはlower boundと呼ばれる既存の量と一致することも示した.一般の可換Banach環上には微分作用素を定義することは不可能であるが,derivationと呼ばれる微分作用素に対応する写像は古くから研究対象とされている.Derivationをさらに一般化したring derivationに対しては,より強い意味での安定性が成り立つことを示した.より正確に述べれば,近似的なring derivationは実はring derivationであることが分かったのである.言い換えればring derivationの摂動は本質的には存在し得ないのである. さらに環準同型写像の構造に関連して,関数環上の同型写像をスペクトルで特徴付けることに成功した.この結果はMolnarの結果を大幅に拡張するものであるが,関連した結果も発表されていることから,世界的に注目を集めている研究分野であるといえる.その中で関数環上の結果を,さらに可換Banach環上の等距離同型写像の特徴づけにまで拡張することが出来た.これらの諸結果は,しかるべき雑誌に掲載済みもしくは掲載予定であるので,詳細については下記の研究発表欄を参照されたい.
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