研究概要 |
ループ空間などの無限次元空間を典型例とするような,ユークリッド空間とは本質的に構造を異にするような空間における確率解析に関して,以下のような研究を行った. 1)位相構造を仮定しない可測空間上の局所対称Dirichlet形式に付随して定まる対称Markov半群について,Varadhan型の短時間漸近挙動評価が成立することを,全測度が有限かつDirichlet形式が保存的という場合に2003年に発表した論文で証明した.今年度行った研究において,これら2つの仮定を外してもやはり同様の漸近評価が成り立つことが示せた.ただし,定式化の際に必要な内在的距離については適切に定義を一般化しておく必要がある.これによってこのような漸近評価が空間の特定の構造によらない普遍的なものであることが従前より強い主張により支持されたことになる.現在論文を準備中である. 2)Nested fractalやSierpinski carpetなどのフラクタル集合において定義された(標準的な)Dirichlet形式について,エネルギー測度が不変測度に関し特異的であるか否かという問いは,ユークリッド空間と異なる幾何構造を持つという事実がどのような解析的な性質に反映しているかを知る上で典型的かつ重要な問題である.従来Nested fractalにおいてのみ特異性が知られていたが,今年度の研究においてSierpinski carpetなどのinfinite ramified fractalをも例に含むような一般的な枠組みで特異性のための十分条件を与え,特にSierpinski carpetについても特異性が従うことを示した.現在論文を専門誌に投稿中である.
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