平成15年度は、Morawetzと望月による線型波動方程式の時空2乗可積分性評価をスケール不変性の観点から再検討することを行った。望月の時空評価式はスケール不変ではなく、また空間2次元の場合が除外されていた。私はまず空間3次元の場合にはスケール不変な評価式は一般には成立しないことを示した。次に、スケール不変性を少しだけ壊した型で空間2次元の場合も含めて望月の不等式を精密にすることに成功した。 つぎに私はこの精密化された時空評価式を非線型の初期値問題に応用した。準線型波動方程式の初期値問題で、小さくなめらかな初期値に対するKlainermanの時間大域解の存在定理に対し、時空2乗可積分性評価式を用いて新しい証明を与えることが可能かというMetcalfeの問いに、Klainerman-Siderisの不等式も援用して肯定的に答えを与えた。 また私の評価式の精密さを鑑みて、昨今国際的に研究が盛んであるなめらかさの低い初期値に対する初期値問題の適切性への応用も試みた。空間3次元で、非線型項が一階の導関数同士の積の形からなる半線型波動方程式の球対称な強解(2回までの超導関数が2乗可積分の空間に入る解)の時間局所適切性はKlainerman-Machedonにより1993年に示されていた。ただし、初期値のノルムが小さくなるときに、解の存在時間がどのように延長されていくかという自然な問題は未解決のままであった。私は空間3次元の場合に、球対称な関数に対して成り立つソボレフ型不等式と上述の精密化された時空2乗可積分性評価式を組み合わせることにより、Klainerman-Machedonの方法から従う球対称な強解の存在時間の評価が大幅に改良できることを示した。
|