1点穴空きトーラスを一意化する擬フックス群の片方のエンドに注目して、長さが固定された単純閉測地線がそのプリーツ不変量になるという条件で、変形空間の正則切断を考えた。これを線形スライスと呼び、その境界の幾何を研究した。別の正則切断であろアール・スライスについて、その境界がジョルダン閉曲線であることを示した論文が今年度出版された。そしてこの線形スライスについても同様に、境界がジョルダン閉曲線であることが証明できた。証明の方針としてはアール・スライスの場合と同様に、ミンスキーの穴空きトーラス群の終端定理を用いて、上半平面の直積から対角成分を除いた空間と変形空間の対応を、線形スライスに制限することで境界を調べた。ミンスキーの結果を定量的に使うことができなかったため、境界のハウスドルフ次元の評価等の、フラクタル幾何の詳細な結果には至らなかった。これは来年度以降の研究目標としたい。その一方11月に来日したユニ・パルコネンとの共同研究で、境界の局所的なフラクタル幾何の結果が得られた。具体的には境界の有理点では内部方向にカスプの形状になっていて、特に微分可能ではないことが分かった。証明の方針としてはミンスキーの終端定理と、パルコネンのケーベ群のプリーツ不変量の結果を用いる。この共同研究の副産物として、数学研究ソフトであるマセマティカを用いて、線形スライスのコンピュータ・グラフィックが作成できた。この図から示唆される結果はいくつかあり、例えば無理数点では境界は微分可能ではないかと予想される。これも来年度以降の研究目標としたい。
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