私は平成15年度を通じてカントール極小系などの極小力学系やそれから生じる作用素環について研究を行い、いくつかの進展を得た。 まず本年度の前半においてはカントール極小系に付随する位相充足群の群構造に関して結果を得た。Xをカントール集合としαをX上の極小な自己同相写像とする。局所的にαのべき乗で書けるような自己同相写像の全体が成す群を位相充足群と呼ぶ。Giordano・Putnam・Skauによって位相充足群の同型類はカントール極小系の完全不変量である事が示されている。私はこの群の正規部分群の構造を完全に決定した。さらにこの群がいつ有限生成となるかも完全に決定した。その副産物として、このようなタイプの群が非可算無限個の有限生成単純群の例を与える事を示した。 本年度の後半は極小力学系の近似的共役の研究に費やした。情報収集のために10月にOregon大学を訪れた際に、同大学のHuaxin Lin教授が極小力学系の近似的共役に関して興味を持っている事を知り、同教授との共同研究を開始した。空間Xがカントール集合ではなくもっと次元が高い場合には、極小力学系から生じる作用素環の分類は未知の部分が多く、環の同型に対応する力学系の条件は何か古くから問題になっている。近似的共役という関係こそが作用素環の同型に対応する正しい概念ではないかというLin教授の洞察に基づき、近似的共役という新しい同値関係を(極小)力学系に対して導入した。さらにこの同値関係が少なくともカントール極小系に関しては期待通りの振る舞いをする事を示した。考察の対象を1次元空間に広げた上で現在もこの研究を継続しており、既に部分的な結果を得つつある。
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