研究概要 |
有理半群(リーマン球面上の有理関数で生成された半群)の力学系と、それに付随して、ファイバーをリーマン球面とし、底空間を一般のコンパクト距離空間とするファイバーバンドル上の、ファイバーを保つ写像でそのファイバーごとの写像が正則になっているものの力学系(以下バンドル上の力学系)を研究した。まずバンドル上の力学系において、(1)各ファイバーごとのジュリア集合が一様完全であり、さらにその定数が底空間について一様に取れることを示した。この結果として、(2)コンパクトな族で生成された有理半群Gの任意の部分半群Hのジュリア集合は、一様完全であり、その定数はGにのみよること、特に、Hのジュリア集合上に超吸引点があるときには、それはジュリア集合の内点になること、を示した。また、半双曲性を持つバンドル上の力学系について、ファイバーごとの写像が二次以上の多項式のときには、その無限遠超吸引域がジョン領域になるなどの、半双曲性が満たすさまざまな良い性質を示した。 また、平面上の臨界値集合が有界になる多項式半群のクラスを詳しく研究した。特に、(3)上記のクラスで、ジュリア集合の連結成分全体に、囲む、囲まれるの関係により全順序が入ること(4)ジュリア集合の連結成分の個数がちょうどn (nは任意の有限自然数)、ちょうど可算個の例があること(5)連結成分全体の集合は、ジュリア集合の、半群の元の引き戻しがなす被覆の脈体がなす系の極限としてとらえられることなどを示した。さらに、フラクタル幾何学の(後方)自己相似集合全体を扱う道具として、(6)相互作用コホモロジー論の建設、臨界値集合が有界である有限生成多項式半群について、上記のコホモロジーの一次部分が無限ランクになるための、ある十分条件と、その例の存在を示した。 また、拡大型有限生成有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元を、Bowenの公式と呼ばれているエルゴード理論の言葉で求めた。その際、従来の熱力学形式を用いた反復写像系の極限集合の次元を求める手法を、さらに一般化して理論を建設した。このとき、等角測度の存在、一意性、また等角測度は次元のハウスドルフ測度になること、などを示した。 また、Hinkkanen, Martinが提出していた予想の反例を挙げ、新たな予想を提出した。
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