昨年度に引き続き楕円型方程式の解の比較原理について考察しました。強比較原理とは以下が成立する事です。考える方程式に対して、劣解と優解が与えられており劣解の値は優解の値以下である事が分かっている状況であるとします。もし、劣解と優解の値が方程式を考察している領域の内点で一致するならば、実は劣解と優解は領域全体で一致する事が分かるという原理です。これは解の一意性を示す場合に非常に強力な道具となります。古典的な問題として、もし劣解と優解が2階微分可能で2階導関数が連続であるならば非線形楕円型方程式に対して強比較原理が成立することが示されています。ただし、方程式に関してもある程度の滑らかさと強楕円性が必要です。その後、この原理の研究は発展し弱解を用いることにより劣解と優解の微分可能性を損なっても、一様楕円型方程式に対しては強比較原理が成立ことが示されています。ただし、劣解と優解にはリプシッツ連続関数であることが必要です。我々は一様楕円型方程式を含む非線形楕円型方程式に対して上半連続な粘性劣解と下半連続な粘性優解の強比較原理が成立することを証明しました。粘性解とは異なる弱解を用いた研究もあります。その弱解として変分問題に由来して定義された解がありますが、それらは定義より方程式に対して変分構造が必要です。我々の原理が適用出来る方程式には変分構造の失われた極小曲面方程式およびその拡張された曲面方程式を含んでいるので方程式に対する変分構造は必要ありません。しかしながら、方程式が退化楕円型であるときには適用出来ません。その典型的な例としてのpラプラス方程式を含む方程式に対する証明は今後の課題としたいです。 また、我々はホップの境界補題を示すことにも成功しました。ホップの境界補題とは劣解と優解が一致する点が領域の境界である場合を考えた補題です。我々の解は微分可能性がないので正確な表現は式を用いないと難しいですが、荒く述べると劣解と優解の差の関数の内向き法線方向微分係数が負値になるという補題です。ただし、考える領域に対して内側から領域に接する球が取れる条件が必要です。
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