研究概要 |
近年になってBarreira, Pesin, Schmelingらは,双曲型測度が「極限的直積構造」とばれる性質をもつことを発見しました.彼等はこの性質を用いてEckmann-Ruelle予想を解決しました.極限的直積構造は,位相的に定義された局所直積構造の測度論的な類似物になっています.しかし,局所直積構造ほどその研究は進められていません.本研究では,双曲型測度の極限的直積構造を用いたエルゴード理論的な研究を進めることを目的とします. 初年度の研究実績は次の通りです:本質的に双曲型測度μに引き寄せられる集合のハウスドルフ次元HD^s(μ)をHD^s(μ)=inf{HD(U W^s(x)):xεΛ,μ(Λ)=1}によって定義します.ここで,{W^s(x)}は安定多様体から構成される葉層構造,HD(A)は集合Aのハウスドルフ次元を表します.このときHD^s(μ)=Σδ_i+dim W^sを満たすことを示しました.ここで,δ_iは異なる正のLyapunov指数χ_iに対応する不安定多様体上の条件付測度のハウスドルフ次元を表します.この結果から,双曲型測度μがSRB測度になるための必要十分条件は,HD^s(μ)が多様体Mの次元と一致することであることが導かれます.ここでSRB測度とは高々可算個のエルゴード成分に分解され,各成分はBernoulli性をもつような測度であり,局所直積集合の性質の類似が成立つような理想的な測度です. この問題に関しては,北大の辻井氏と九大の平山氏の研究がありますが,我々の結果はアトラクターに吸引される領域をより精密に評価できることが特徴です.現在、上記の論文の投稿準備中です. 証明は以下のようになされます: 極限的直積構造を用いることによって十分小さな部分では局所直積構造に近い構造があることが保証されます.それらの各部分において安定多様体のホロノミー写像により,不安定方向の測度の次元が急激に変化しないことを示します.
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