本年度は、種々の時間遅れをもつ差分方程式の解の漸近挙動について、対応する時間遅れをもつ微分方程式における解析手法を援用することで、解の定性的性質を数学的に証明することができた。具体的な研究成果は、次の3つである: 1.特性方程式の根の分布を詳しく解析することで、1つの時間遅れと2つの定数係数をもつ2次元線形差分方程式系の零解が漸近安定であるための必要十分条件を導出し、従来の結果を一般化することができた。 2.時間遅れをもつ2次元線形差分方程式系の零解が漸近安定であるための必要十分条件を、係数行列の行列式、トレースおよび時間遅れを用いて具体的に求めることに成功した。また得られた成果を時間遅れをもつロトカ・ヴォルテラ型差分方程式系に適用し、正の平衡点が局所的漸近安定であるための十分条件を与えた。 3.相空間における定数変化法の公式を利用して相空間の直和分解することにより、時間遅れをもつ非線形関数差分方程式に対する不変多様体(安定多様体、不安定多様体、中心-不安定多様体)の存在を確立し、解の安定性や不安定性に関する結果を得た。
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