本研究の目的は楕円型作用素が離散スペクトルを持つ時の固有関数や、ある種の群作用に関する固有関数の分布関数の漸近挙動を調べることにあった。そこで、いわゆるコンパクトなトーリック・ケーラー多様体と呼ばれる複素多様体とその上のトーラス作用で実現される特殊な可積分系について、考察した。つまりトーリック多様体上のトーラス作用を古典可積分系と捉え、その量子論的側面を記述する正現化された固有関数の分布関数について考察した。このような状況では、多様体上のトーラス作用の量子論的側面は、以下のように記述される。曲率が、与えられたケーラー形式となるような、トーリック多様体上の正則直線束の正則切断全体に、もともとのトーリック多様体上にハミルトン的に作用しているトーラスが引き戻しで作用する。これは正則直線束のテンソルを取っても同様である。つまり、正則直線束のテンソルごとに、正則切断全体のなすヒルベルト空間を量子状態空間と考え、そこへのトーラス作用を量子可積分系と捉え、そのトーラス作用のウェイトベクトルを固有関数と考える。この設定は、古くから知られている量子力学のバーグマン形式の類似と考えられ、直線束のテンソルの階数はプランク定数の逆数に対応する。我々はこの設定で、半古典極限下で、固有関数が不変トーラス上に局在していくことを、精密な漸近公式として得ることが出来た。更にそれを用いて、しかるべくスケーリングした分布関数が、半古典極限の下で、いわゆる「対数ベキ法則」に従うことを証明した。ここで得られた結果は、論文上で発表したほか、研究集会等でも発表した。 当初は量子調和振動子の固有関数、つまりエルミート関数や、球面調和関数の分布関数についても調べる予定であったが、現時点では結果は得られていない。来年度以降の課題である。
|