これまでブラックホール(BH)には、太陽の10倍程度の質量の恒星質量BHと、各銀河の中心に存在する太陽質量の100万倍以上の巨大BHという2種類が存在することが知られていた。しかし我々がM82銀河に発見した極光度X線天体は、その間の中質量BHである可能性が高く、巨大BH形成過程を知る上で極めて重要な天体である。また、その極度に大きい光度をどのような物理過程で輻射しているのかも良くわかっていない。これらの謎を解明するには、高エネルギーX線領域での撮像観測が鍵を握る。 2005年7月に打ち上げられた日本のX線天文衛星「すざく」は幅広いダイナミックレンジを持ち、特にX線CCDは高エネルギー側で低バックグラウンド・高検出感度・高エネルギー分解能を誇る。まさに極光度X線天体の観測に最適の衛星である。私は「すざく」のX線CCD開発者として、その性能を最大限発揮させるべく、性能評価およびキャリブレーションを行った。そして「すざく」X線CCDでTeVγ線天体HESS J1616-508の観測を行い、この天体はX線では非常に暗いことを発見した。TeVγ線で非常に明るいがX線では暗いという非常に特異な性質を持つこの天体は、粒子加速の物理過程に関する新しい情報を我々にもたらすことが期待されている。また、次期X線天文衛星NeXTには、さらに高エネルギー側の感度を向上させたX線CCDを搭載させる予定であり、私はその開発も行った。またもし極光度X線天体が本当に中質量BH周辺の降着円盤からのX線放射であるならば、一般相対論的効果によりX線が偏光することが期待される。将来のX線偏光観測を睨み、ガスマイクロピクセルチェンバーを用いたX線偏光計の開発を行い、実際にKEK Photon Factoryの放射光を用いた偏光検出実験を行い、偏光検出に成功した。
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