我が国のすばる望遠鏡のユニークな特長である、広視野カメラを利用して、遠方宇宙の観測を系統的に行い、宇宙の構造とそれを構成する銀河の特性を、時間と環境との関数として詳細に比較することによって、宇宙が誕生してから今日の階層的銀河宇宙が形成されてくるまでの過程(特に構造形成と銀河進化)を実証的に明らかにすることを目標としている。 本年は、まず10月に4晩のすばる観測を実行し、2つの遠方銀河団について分光データを取得した。そしてこのデータの整約および解析を集中的に行ない、既に2つの銀河団について、その周辺領域に広がる10Mpc規模の銀河団大規模構造の確認に成功した。これによって、銀河団がより小さなシステム(銀河群)から階層的に形成されてくる様子を確実に証明することができた。また、これら銀河団の大規模構造に沿って、銀河の特性、特に星形成率がどのように変化するかを調べ、銀河団本体からずっと離れた銀河群規模の構造の中で銀河の星形成率に大きな変化が見られることを追認した結果、および銀河特性の質量依存性が環境の関数として変化することを発見した結果を論文に纏め上げ、提出した。今日の銀河特性は環境に大きく依存していることがよく知られているが、この結果はその環境依存性の起源を理解する上で貴重なものであり、すばる望遠鏡の威力を知らしめる結果であるといえよう。これらの成果は本年度の国内外の学会で広く報告し、良い評価を受けた。 また、すばるで取得した遠方銀河団の狭帯域撮像データの解析を行い、銀河団中の星形成率の分布関数が環境によらないこと、また銀河形態の変化と星形成率の衰退とが見られる環境がことなることを示した結果などを論文で発表した。さらに、3つの遠方銀河団について大規模構造の進化を示し、理論モデルとの比較を行った論文も発表した。これら一連の研究結果は国際会議でも発表した。 一方、すばるの近赤外線撮像観測によって、超遠方(z〜2以上)のクエーサーの周辺領域の探査を行い、原始銀河団を2つ発見した。この結果については、現在解析中である。
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