彗星の中心となる核は、約46億年前に原始太陽系星雲中で集積した、氷と塵を含む固体微粒子の集合体である。この氷がどのような環境化で形成されたかを知ることは、46億年前の原始太陽系星雲の物質環境を探る上で貴重な情報源である。本研究では、彗星氷に含まれるアンモニア分子について、オルソ種とパラ種の比率を観測し、その比率が達成されうる温度(核スピン温度)について調べた。また、アンモニア氷だけでなく、水の氷についても他の研究結果を参考にし、彗星に含まれる氷の形成温度を議論した。アンモニアについては、2000年から継続している観測から3つの(c/1999s4、c/2001A2、153P/Ikeya-zhang)彗星について、また、1997年のHale-Bopp彗星の観測データを入手して測定を行った。その結果、4つの彗星において、すべて30K前後の温度が得られている。また、一方で、過去の水分子における研究からも、3つの彗星において約30Kという温度が得られている。今回の研究に用いたサンプルは、すべてオールトの雲から飛来したと考えられる。得られた温度が該当する領域は、ほぼ大惑星が形成された領域であり、オールト雲由来の彗星が大惑星領域で形成されたとする従来の軌道進化シミュレーションの結果と矛盾しない。 以上のような研究は、従来、氷が気化したガスを観測して情報を得ている。しかし、より直接的に、彗星核に含まれる氷を観測する試みを本年度は開始した。これにより、オルソ/ペラ比とはまったく別の観点からも彗星氷の起源を探ることができ、その結果を検証することができる。今年度は、C/2002T7彗星の近赤外分光観測を行い、水の氷粒を直接検出に成功した。彗星における氷粒の確実な検出は2例目である。観測結果からは、水の氷がアモルファス状態になっており、彗星氷が100K以下で形成されたことが分かった。
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