本研究の目的は、これまで有効理論を用いて不完全に扱われてきたハドロン行列要素を第一原理から直接計算する方法を開発することである。この目的のために、アイソスピン2のπ中間子散乱の定量的な研究からはじめた。π中間子散乱の研究は、ハドロン行列要素の研究を別にしても、量子色力学におけるハドロン間相互作用を理解するうえで、欠くことのできない重要な研究である。 平成17年度は、2体波動関数から直接散乱位相を計算する全く新しい方法の開発を試みた。我々の新しい方法は往来の方法に比べ数値計算上格段に非常にすぐれた方法である事が分かった。実験値と比較できうるほど高い統計精度を、比較的容易に達成できるのである。この成果により、有効理論を用いず第一原理のみから、ハドロン行列要素の定量的な評価が可能であることが示された。 更に研究を、アイソスピンが0及び1である2体パイ中間子散乱の研究へ発展させ、σおよびρ中間子の様な不安定粒子の性質の調査を試みた。それにより、残念ながら、アイソスピンが0の場合は、現在の計算機の能力では計算不可能であることが判明した。アイソスピンが1の場合は、クォーク質量が80Me程度までは十分な統計制度の下で計算が可能であることが分かった。現在は、軽いクォーク質量での計算の為の種々の計算技術を開発中である。
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