今年度は大きく分けて二つの研究を行った。 まず一つ目は、閉弦のタキオンに関係した時空の不安定性に関するものである。O型と呼ばれる弦理論においては、半径が小さなS1にコンパクト化されている状況において、そのS1に巻きついていないNS5-ブレーンの上に閉弦のタキオンのモードが局在することが古典的重力理論を用いた昨年までの研究によって明らかになっていたが、そのタキオン的質量の解析には弦理論による解析が不可能であった。私はNS5-ブレーンの背景をT双対変換によって別の背景時空に書き換え、その上での弦のスペクトルを背景曲率を摂動として取り入れることで計算した。その結果古典重力で得られた定性的な結果が正しかったことが確認され、NS5-ブレーン上に局在する不安定モードがどのような時空変形に対応するのかが明らかになった。 二つ目はゲージ/重力対応を用いたバリオンについての研究である。バリオンは陽子や中性子などの一群の粒子の総称であるが、ゲージ群のサイズが大きい極限ではこれらの粒子は曲がった時空上である構造を持つブレーンとして取り扱えることが知られている。具体的には、バリオンを構成するそれぞれのクオークに対応する筒状のブレーンをある一点でつなぎ合わせたような構造をしている。このブレーン全体のエネルギーを計算することによってバリオンの質量などを見積もることができるわけであるが、これまではこのつなぎ目部分の取り扱いが難しく、そのような計算はほとんどなされてこなかった。私は数値計算の力を借りてつなぎ目部分のエネルギーを計算し、ある場合には厳密に解けることを示した。そして多くの場合つなぎ目部分のエネルギーが負になるという直感に反する興味深い結果が得られた。
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