SPring-8レーザー電子光施設において、レーザー光と高エネルギー電子の散乱によって生成された偏極ガンマ線ビーム(レーザー電子光)を重水素標的に照射し、ファイ中間子生成実験を行った。入射ガンマ線のエネルギーは1.5から2.4GeVで、直線偏極度は90%以上である。レーザー光子と衝突してエネルギーを失った散乱電子の運動量をタギング検出器と呼ばれる検出器で測定することにより、全ての事象毎に入射ガンマ線のエネルギーを特定している。本研究において、このタギング検出器をシンチレーションファイバーとマルチアノード光電子増倍管を用いた高速で動作するものに改良し、従来の約1.5から2倍のビーム強度で実験する事を可能にし、統計精度の高いデータを得る事が可能になった。 重水素標的からのファイ中間子反応のデータから、ファイ中間子が正負の電荷のK中間子対に崩壊する際の角度と入射ガンマ線の偏極方向の相関を解析した結果、陽子を標的とした場合と重水素を標的とした場合で異なる大きさの崩壊非対称度を示す事が明らかになった。これは、ファイ中間子生成における中間子(パイ中間子およびエータ中間子)交換過程が、陽子標的と中性子標的の場合のアイソスピン依存性のために異なる寄与の仕方をするためとして、定性的には理解できる結果であった。また、重水素を標的とした場合に、陽子と中性子がコヒーレントにファイ中間子生成反応を起こす事象も確認された。
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