相対論的重イオン衝突実験で実現されると期待されているカイラル対称性の回復の後、対称性が再び自発的に破れる際の相転移の動的過程を理解するために、O(4)線形シグマ模型に基づき、研究代表者が開発した「スクイーズ状態を用いた時間依存変分法」により理論的な研究を行った。この方法では従来の研究では考慮されてこなかった量子効果が適切に取り込まれており、量子場の中でのカイラル相転移の秩序変数の時間発展を追うことにより、カイラル相転移の動的過程を扱うことが可能である。カイラル相転移の終段階では、カイラル相転移の秩序変数であるカイラル凝縮体が、その本来の真空値の周りを振動することが期待されるが、その際に秩序変数の周りの量子揺らぎとしての量子メソン場の振幅が増大することを、重イオン衝突後の衝突領域の空間膨張のある・なしの双方の場合において数値的に明らかにした。量子メソン場、特に低運動量のパイオン場に増幅が見られたが、そのメカニズムとしてはパラメトリック共鳴と強制振動による共鳴の双方が関与することを明らかにし、メソン場の不安定領域を明確にした。メソン場の増幅はメソンの放出につながると期待されるので、放出メソンの運動量分布の研究を実行することにより動的カイラル相転移が起きているかどうかのシグナルになると期待される。また、相補的であるが基礎的な研究として、フェルミオン多体系を直接スクイーズ状態で扱い、時間発展を記述する方法を、非相対論的多体系ではあるが構築し、量子効果が果たす役割を分析した。
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