研究概要 |
NP完全問題として知られる,3次元マッチング問題と,排他カバー問題を,統計力学における相転移とみなして解析した. 1個の確率パラメータにしたがって,ランダムに問題を生成し,その問題が肯定的に解ける確率,および肯定的か否定的かを枚挙によって決定するための計算量を,平均場的近似,および直接の計算機実験によって評価した.平均場的近似が非常に良い場合と悪い場合があり,その差の原因を調べることが重要であることがわかった.また,臨界指数を求めるために転移点近くのデータを収集した. また,3次元マッチング問題は,特定の場合には,ランダムグラフのサイクルの存在問題に帰着することを示した. 特定な構造を持つ大きな疎行列の最大固有値を効率よく求める方法である密度行列くりこみ群について調べた.統計力学の問題であるO(n)ループ模型の転送行列(固有値が実な複素行列)に対して適用したところ,対称性を保つなどの種々の配慮を行って初めて,計算結果の固有値が実で意味のある値を得た.これを,系のサイズが小さく,厳密な最大固有値がわかっている場合についても行った.密度行列くりこみ群は,次元の少さい重要な部分空間だけを保持して計算する方法であるが,最大固有値の評価値は,次元を増やしても厳密な値に近づく振る舞いを見せない.このような振る舞いは,いくつかの系について,他の研究者によって報告されており,O(n)ループ模型について詳細に調べることにより,密度行列くりこみ群の適用限界について新しい知見が得られる可能性がある.
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