標的で生成される大量の2次粒子による発熱から電磁石を守るため、標的と下流の磁石との間にコリメータを設置する。このコリメータは熱伝導の良い無酸素銅で作られ、周囲を水冷する。50GeV、750kWの陽子ビームを30%ロス標的に当てた場合について計算した結果、コリメータの厚さやギャップの大きさを調節し、磁石の鉄芯自体も水冷することで、コリメータの最大温度を300℃以下、下流磁石の鉄芯の最大温度を100℃以下に抑えられることが分かった。しかし、磁石の磁極の内側、つまりよりビームに近いところに置かれるビームダクトに関しては、トリチウム生成の問題もあり、水冷で温度を下げることが非常に困難である。そこで、磁極の間に真空ビームダクトを通すという従来のビームラインの構造を逆転させ、巨大な真空槽の中に磁石全体を入れるというシステムを考案し、磁石等のメンテナンスも考慮に入れた具体的な構造を設計した。また、この大型真空槽の成立性を確認するため、真空中での電磁石運転試験を行った。実験は、高さ1.2m、直径2mの真空槽の中に電磁石を設置し、蓋に設けた導入端子を介して真空槽内に電気と冷却水を供給するようにセットアップした。その結果、約3×10^<-3>Torrの真空度で3000Aの大電流を流して磁石を励磁させることに成功した。NMRとホール素子により磁場を測定し、真空中と大気中とで確かに同じ強度の磁場が発生していることを確認した。また、熱電対によりコイル等の各所の温度を測定し、空冷がなされない真空中の場合でも、大気中に比べて最大でも3℃程度の温度上昇に抑えられ、コイルの冷却についても問題ないことを確かめた。なお、この電磁石真空運転試験の成果については、大強度陽子加速器計画月報12月号に記事が掲載された。
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