銀河の分布など宇宙の大規模構造は主に重力で特徴づけられるが長距離引力の特異性の為に、本質的な非加法性を持つ可能性があるし、特徴的なスケールが無い為に、様々な分布関数において長いテイルを引くという特徴を示す。通常のボルツマン統計力学をそのまま適用すると、これらの非ボルツマン的な性質を上手く記述することができないので、本年度途中までは、非加法的熱・統計力学と加法的熱・統計力学の違いを明確化した。 非加法的な理論の例として代表的な(1)Tsallis統計力学、及び、(2)空間的にフラクタルなモデルに対するボルツマン統計力学、の2例を用いた。また、加法的な理論の例として、(3)力学平衡からのずれを示すバラメータを導入したボルツマン統計、(4)Renyi統計力学、の2例を用いた。このうち、(1)と(4)の2例は分布関数が長いテイルを引くが、(2)と(3)の2例は、通常のボルツマン統計と同様、テイルが短い。 宇宙の大規模構造CfAII Southの銀河分布の観測結果と比較するため、上記4種類の理論モデルにっいてそれぞれ、任意の体積V内にN個の銀河が存在する確率をカウント・イン・セル法で計算した。その際、体積V内に銀河が1つも存在しないボイド確率を母関数として、任意の個数N個が存在する確率を導く方法は、White S.D.M.によって定式化されていたが論理が複雑だったので、私達はWhiteの証明のエッセンスに場の理論の考え方を適用し、明確な論理で再定式化した。また、Tsallis統計に対応する熱力学は未完成だったため、私達はTsallis統計におけるオイラー関係式を導き、熱力学を構成した。 4種類の異なる理論を比較するために赤池情報量(AIC)を用いた結果、ボイド確率については非加法的で長いテイルを引くTsallis統計が最も良く合ったが、高次の銀河の存在確率については加法的だが長いテイルを引くRenyi統計が最適となり、自己重力系では長いテイルを引く分布が重要であるという新たな知見が得られた。 以上の結果は"Is Galaxy Distribution Non-extensive and Non-Gaussian?"というタイトルで論文にまとめ、現在投稿中であり、プレプリント番号astro-ph/0304301として公開した。
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