(1)「宇宙の大規模構造を表す統計力学の決定とredshift依存性」 平成17年夏に公開された現在最新最大の宇宙地図であるSloan Digital Sky Survey DR4を用いて、分光された銀河のデータがどのような性質の統計力学に従って分布しているか調べた。重力が形成する宇宙の大規模構造の普遍的な性質が、観測を再現できる統計力学の持つ性質に現れているはずである。重力の特長と考えられる性質のうち、(A)「系が非加法的」(B)「分布関数が長くテイルを引く」の2点に着目し、(A)と(B)の性質を「満たす/満たさない」組み合わせを網羅するように4種類の統計力学を選んで解析した。ボルツマン統計力学、空間的にモノ・フラクタルな物質を導入したボルツマン統計力学、Renyi統計力学、Tsallis統計力学の4種類である。 銀河の明るさに依存する要因を除くため、銀河の絶対等級を-21.5等級以上-20.0等級以下に限定し、redshiftの範囲に対応した3つの領域のvolume limited sampleを作成した。 銀河の個数密度に依存しない結果を得るために、横軸を密度の1/3乗でスケーリングさせ、銀河が存在しないボイド確立のグラフを描かせて比較した。 結果は、3つのvolume limited sample全てで、確率分布関数が長いテイルを引く特徴を持つTsallis統計とRenyi統計が良く観測を再現することが明らかになった。 しかし、3つのsampleとも比較的近いため、redshift依存性は見えなかった。 (2)「宇宙論的N体シミュレーションを表す統計力学の決定とredshift依存性」 大規模構造の形成の歴史を探るために、redshiftの大きな値も解析可能なN体シミュレーションのデータを用いることにした。初期条件はMITグループが開発したCOSMICSで作成し、その後の時間発展は、MITのP3Mのコードを改良したプログラムを用いて、近距離力は直接計算し、遠距離力は空間メッシュでまとめて計算させた。 結果は、ボイド確率分布のredshift依存性が明確に現れ、構造が形成されてきた様子を反映している。Tsallis統計が全てのredshiftでよく合い、ボルツマン統計は構造形成の後は合わなくなるが、それ以前ではよく合うことがわかった。(1)と(2)の結果は近日中に論文にまとめる予定である。 (3)「自己重力系の局所ビリアル関係」 自己重力系において球対称重力崩壊のN体シミュレーションを行い、系が局所ビリアル関係によってユニークに特徴づけられることを明らかにした。また、局所ビリアル関係は空間方向に対して常に「べき乗型」の密度プロファイルを持つ解空間を生成することがわかった。この結果は論文として発表された。
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