ナノ構造中に閉じ込められたスピン配列の光学的制御

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15740175
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 富田 卓朗 東北大学, 多元物質科学研究所, 助手 (90359547)
• キーワード: 希薄磁性半導体 / 量子構造 / スピン注入 / スピン緩和 / 励起子トンネリング / 顕微分光 / II-IV族半導体 / 円偏光度

研究概要

本研究で希薄磁性半導体量子構造におけるスピン配列の制御可能性について研究を行ってきた。研究対象として磁性イオンのマンガン原子との親和性が高いII-IV族半導体を選び、分子線エピタキシー法で量子井戸構造を作製した。この試料を電子線リソグラフィー法とウエットエッチングで微細加工し、数十ナノメートルスケールの量子細線や量子ドットに加工した。測定系としては従来の光学系に加え、新たに磁場中時間分解顕微分光測定系を構築し、単一細線や単一ドットの分光が出来るようになった。
これらの試料と光学系を用い、スピン配列制御可能性、特に磁性半導体から非磁性半導体へのスピン注入過程の議論を行った。希薄磁性半導体中で整列された電子スピンがエネルギー緩和により非磁性半導体へと注入される過程におけるスピン緩和を非磁性層からの発光の円偏光度から測定し、量子井戸構造(2次元系)と量子ドット構造(0次元系)で比較を行った。その結果、量子井戸構造では5Tにおいて10%程度の円偏光度が得られたのに対し、量子ドットでは15%程度の値が得られた。これは低次元化することでスピン緩和が抑制されスピン注入度が向上したものと考えられる。さらに時間分解発光分光の結果から円偏光度の時間発展を議論し、円偏光度が数100ps程度遅れて立ち上がってくることを見いだした。この遅れて立ち上がってくる円偏光成分を明らかにするためにレート方程式による解析を導入し、この成分が励起子トンネリングメカニズムによりホールが遅れて注入されることに起因することを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] S.Shirotori, K.Kayanuma, T.Tomita, Z.H.Chen, M.C.Debnath, I.Souma, A.Murayama, Y.Oka: "Magnetic-field-induced level crossing and the spin dynamics of excitons in Znl-xMnxTe/ZnTe quantum wells"J.Superconductivity, incorporating Novel Magnetism. 16. 457-460 (2003)
• [文献書誌] Z.H.Chen, H.Sakurai, K.Seo, K.Kayanuma, T.Tomita, A.Murayama, Y.Oka: "Spin dynamics of excitons and magnetic ions in Cd_<1-x>Mn_xTe/Cd_<1-y>Mg_yTe quantum wells"Physica B. 340-342. 890-894 (2003)
• [文献書誌] K.Kayanuma, S.Shirotori, Z.H.Chen, T.Tomita, A.Murayama, Y.Oka: "Spin injection and spin switching of excitons in coupled quantum wells of diluted magnetic semiconductors"Physica B. 340-342. 882-885 (2003)
• [文献書誌] E.Nakayama, K.Kayanuma, T.Tomita, A.Murayama, Z.H.Chen, Y.Oka: "Dynamics in magneto-optical properties of digital magnetic Zn_<1-x>Cd_xSe quantum wells"Physica E. 印刷中. (2004)
• [文献書誌] Z.H.Chen, H.Sakurai, T.Tomita, K.Kayanuma, A.Murayama, Y.Oka: "Subpicosecond dynamical renormalization of spin-polarized electron-hole plasma in Cd_<1-x>Mn_xTe"Physica E. 印刷中. (2004)
• [文献書誌] E.Nakayama, T.Uchida, I.Souma, T.Tomita, Z.H.Chen, A.Murayama, Y.Oka: "Effects of digital doping of Mn on giant magneto-optical properties of Zn1-xMnxSe quantum wells"J.Superconductivity, incorporating Novel Magnetism. 16. 407-410 (2003)