研究概要 |
「膜内の定在波はどのくらいの時間でできるのか?」この疑問に対して実験的に答えを得るために、まだ中性子が量子井戸ポテンシャル場にいる間に、ポテンシャルを変動させてやり、そのポテンシャル場を透過した中性子のスピンプリセッションを測定する。磁場中でラーモア歳差運動を行う中性子の波動関数は、↑↓スピン中性子波動関数の重ね合わせで考えられ、そのラーモア歳差回転角はその波動関数の期待値から求められる。多重連結量子井戸は、静磁場では↑スピンは多重の量子井戸、↓スピンは一つのポテンシャルのみを感じるFabry-Perot磁気多層膜を用いて実現する。Fabry-Perot磁気多層膜を透過するラーモア歳差回転中性子の回転角は井戸の数が増加するに従って比例的に増えるが、その透過確率は適当な層数(10層程度)以上はほとんど変化しない。そしてFabry-Perot磁気多層膜内に束縛される中性子の時間は、ラーモア歳差角から計算すると、2μ sec程度までは実現可能となる。1MHzでポテンシャルを変化させれば、Fabry-Perot膜内に一気に(つまり1μ secより小さい時間で)定在波ができるのか、それとも、↑↓位相差で計算されるような時間スケールで、つまり各量子井戸ごと進むごとに定在波ができているのが分かる。本年はまず、イオンビームスパッタ法を用いて、1MHzでかつ低磁場で機能するFabry-Perot磁気多層膜の実現を背景に、高性能な中性子偏極ミラーを開発すること中心に行った(Physica B, in press)。そのような高速中性子計測に対応した冷中性子スピン干渉計の開発や磁気シールドによるスピン干渉計の高性能化も試みた。また偏極ミラー開発の過程で、世界最高性能のNiC/Tiスーパーミラー(Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. A. in press)やNi/Ti多層膜モノクロメータ(Physica B, in press)の実現にも成功した。
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