本研究では、自由電子レーザーと容易に組み合わせることのできる超小型のパルス磁場発生装置を開発し、それをもちいた強磁場物性測定技術を確立させることを目的としている。本年度は主に装置・測定技術の開発を行い、特に、磁場発生技術を著しく発展させることができた。 パルス磁場は定常磁場などに比べ、少ない電力で高い磁場が発生できることに特徴があるが、磁場発生空間を従来型マグネットの100分の1程度にすれば、電源の大きさを簡単に持ち運ぶことができる程度に小型化できる。本研究で使用するマグネットは、長さが20mm程度、ボア径は3〜6mmと非常に小さいため、従来型のパルス磁場技術がそのまま応用できず、線材の選定や補強の仕方なども含むコイルデザインを新たに行う必要がある。 研究開始初期のマグネットは発熱の観点から有利である標準的な銅線の巻き線コイルとしたが、線材の強度から最高磁場は26テスラ程度までであり、耐久性にも問題があった。そこで引っ張り強度の高いCuAg線材を用い、電流密度を比較的小さくしたデザインのコイルを開発することで、最高50テスラを発生できるコイルの開発に成功した。これは、従来型の中規模パルス磁場装置の発生最高磁場が40-60Tであることから、パルス磁場の特徴を活かした十分な強磁場環境であるといえる。 また、コイル開発と平行して、テラヘルツ領域での強磁場光物性測定技術の開発も行った。自由電子レーザーと類似の時間構造をもつ放射光源である線形加速器からのコヒーレント放射光を用い、開発したパルス磁場装置と組み合わせた磁性体の磁気光吸収実験を行った。光パルスと磁場との同期の仕方を変化させることで、光パルスの積分強度の磁場依存性を測定する方式と、光パルスの持続時間内での磁場掃印で吸収ピークを観測する方式を比較した。前者では、光のパルス列におけるパルス強度のばらつきが、後者では1つの光パルスの時間構造と、磁場パルスと光パルスのそれぞれのパルス幅の関係が問題となる。実験を行った京都大学原子炉実験所では光のマクロパルス幅が4マイクロ秒と磁場パルス幅(〜1ミリ秒)よりも非常に短く、そのような条件では前者の方式が有利であり、実際の電子スピン共鳴の吸収スペクトルも前者の方式のほうが精度が良いことが確認できた。しかし、後者の方式でも信号が確認できたことから、磁場のパルス幅を大幅に短くするコイルデザインを行えばより高精度の測定が効率的に行えると考えられる。現在そのような超短パルス用のコイル開発を進めている。
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