研究概要 |
最近の研究により,光合成細菌における光合成の初期過程においては,これまでに人類が創製した如何なるデバイスよりも,遥かに高速(100フェムト秒以下)で高効率(ほぼ100%)のエネルギー変換が実現されている事が明らかになり,光合成反応の本質を探る研究は更に重要性を増してきている.本研究は,超高速レーザーと共焦点型顕微鏡を用いて,光合成細菌の光合成系を形成する個々の色素蛋白超分子構造体の超高速光学特性を調べ,自然界が形成した超高速・高効率のエネルギー変換器(光合成反応組織)について,その動作機構を明らかにすることを目的とする. 本年度は本研究を遂行するために最も重要な装置である,共焦点型顕微鏡の設計・組立を行い,良好に動作することを確認した.空間分解能は,約2μmであり,Rps.acidophila 10050やRps.palustris等の単一色素蛋白複合体の顕微発光イメージ・顕徴発光スペクトルの測定を開始できる段階にまで到達した.また本年度は,超高速分光を行うための光学系の整備を行った.過渡吸収分光用にポンプ・プローブシステムを,時間分解発光スペクトル用には光カーゲートシステムを構築し,100フェムト秒台の分光に関しては問題なく高精度でシグナルを検出できるようなった.このシステムを用い,極性カロテノイドのフェムト秒過渡吸収分光を行い振動励起状態に関して新たな知見を得た.この結果は,Carotenoid Science誌に掲載予定である.更に,光合成初期過程を明らかにするために,サブ10フェムト秒レーザー分光システム(NOPA)の整備も行った.現在,最短で8フェムト秒のパルスの発生に成功している.今後,このレーザー分光システムと前述の共焦点顕微鏡,および光カーゲートシステムを組み合わせることにより,単一分子の超高速イメージの観測を進めていく予定である.
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