GaN/AlN量子井戸は伝導帯のバンドオフセットが約2eVと大きく、光通信に使われている近赤外領域でのサブバンド遷移を実現できる。また、LOフォノンとの強い結合が存在する為、非輻射緩和が100fs程度と高速であることが予想され、高速非線形材料として非常に有望である。これまでは十分なサブバンドエネルギー間隔がある薄い井戸層を作製する際にGaN-AlN間の格子不整合などが問題になっていたが、これまでに日米のいくつかのグループで波長1μm台前半にサブバンド遷移を持つ量子井戸が実現されるようになっている。しかしながら光非線形性を直接測定できるほどの高ドープ濃度でかつ良質な試料の作成が困難であるため、現在のところGaN/AlN量子井戸のサブバンド間遷移に対する光スイッチング特性(非線形光学定数及び緩和過程)を評価した例はほとんど無い。 本年度は、昨年度に行った三次光非線形性の評価を引き続き行うとともに、非縮退ポンプ・プローブ法にょる測定を新たに行って、サブバンド間遷移の緩和過程をより詳細に調べた。具体的には光パラメトリック増幅器のシグナル光とアイドラー光をそれぞれポンプ光ないしはプローブ光として用い、波長を振りつつプローブ光強度の時間変化を測定することによってサブバンド間緩和のエネルギー依存性を測定した。その結果、通常言われているLOフォノンによる超高速のサブバンド間緩和とともに、ピコ秒程度の遅い緩和がキャリアの冷却過程によって生じていることが明らかになった。また、得られたデータからサブバンド間遷移の均一幅を見積もった。
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