本研究では、金属結晶をフェムト秒(fs)パルスレーザーで光励起し、電子励起状態の緩和及び、コヒーレント光学フォノンの緩和を反射型ポンプープローブ分光法によって測定し、特に未解決の時間領域である1ピコ秒(ps)以下の電子-電子散乱と電子-格子散乱の実時間ダイナミクスを明らかにすることを目指した。本年度は、ポンプープローブ法により得られた7K-300Kの温度での金属単結晶Znの光励起電子及びコヒーレント光学フォノンによる時間分解反射率変化を、Two Temperature Model (TTM)を用いてさらに詳細に解析した。時間分解反射率変化は、パルスの自己相関関数で近似できる幅で立ち上がり、その後数100fsで緩和しており、それと同時に、Znでは周波数約2.3THz(時間周期=約440fs)のコヒーレント光学フォノンが観測された。この数100fsの緩和は、励起電子の電子-格子散乱によるエネルギー緩和であると考えられる。この反射率変化を、減衰振動(コヒーレントフォノン)と、TTMから導かれる光励起電子温度の時間変化(指数関数的な減衰)との線形結合の関数を用いてフィットしたところ、様々な温度における電子-格子散乱による励起電子の緩和時間が求められた。それらを温度の関数としてプロットしたところ、温度の上昇と共に単調に増加することが分かった。この結果は、これまで貴金属(AuやCuなど)などで得られている結果と類似のものである。さて、TTMから導かれる電子-格子散乱による電子の緩和時間は、温度に対して低温では発散し高温では温度の一次関数になる事が分かっているが、Znにおいて得られた温度依存性は、50K以下ではTTMからずれている。このずれは、低温では、「電子-電子散乱時間が電子-格子散乱時間よりも十分短い」というTTMにおける近似が当てはまらなくなる為であると考えられる。また、コヒーレント光学フォノンの減衰時間については、温度の上昇と共に減少することが分かり、これは非調和項による音響フォノンへのエネルギー緩和であると考えられる。
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