1.励起子間相互作用に対する誘電体閉じ込めの影響を明らかにするために、2種類の無機有機複合層状半導体、(C_6H_5C_2H_4NH_3)_2PbI_4(PEPI)と(C_6H_<13>NH_3)_2PbI_4(C6)に対して、励起子共鳴励起によるサブピコ秒ポンププローブ分光測定を行った。PEPIとC6との主要な違いは、有機部分の誘電率にある。実験の結果、励起子のブルーシフトとブリーチングが観測され、いずれもPEPIよりもC6において強いことが明らかになった。また、ブリーチングに対するブルーシフトの相対量においては、PEPIの方が強いことがわかった。以上の結果から、PEPIよりもC6のほうが誘電体閉じ込めの度合いが強いために励起子間相互作用が強く、その結果として非線形性が強く現れることを理解した。 2.PEPIにおける励起子光シュタルクシフトの離調依存性を調べた。その結果、ポンプ光とプローブ光を逆円偏光としたばあいには、励起子共鳴の約50meV低エネルギー側で高エネルギーシフトが低エネルギーシフトへと切り替わることを明らかにした。また、同円偏光においては、離調に対するべき乗依存性が-1よりも強いことを初めて実験的に明らかにした。以上の結果が励起子分子と非束縛2励起子状態に起因することを、6準位モデルにより示した。 3.ポンプ光をPEPIの励起子-励起子分子(X-M)遷移に共鳴させ、ポンプ光強度に対するX-M遷移のラビ分裂幅を測定した。その結果、1励起子あたりのX-M遷移モーメントを3.5eÅと決定した。これより、単位胞当たりの励起子遷移との振動子強度比として、fm/fx=8.1が得られる。この実験値は、巨大振動子模型による見積値よりも1桁小さい。結局、励起子-光相互作用が桁違いに強い場合には、従来の模型が適用出来ないことを、初めて実験的に明らかにした。
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