典型的なスピンクロスオーバー錯体の一つである、[Fe(ptz)_6](BF_4)_2において、その光機能性解明を目的とし、放射光を用いた粉末回折法により電子密度レベルでの構造解析を行った。実験は、第3世代放射光施設であるSPring-8の粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2で行った。そのデータを、マキシマムエントロピー法とリートベルト法を組み合わせた方法により解析した。以上の手法により、低温相(LS)と高温相(HS)の電子密度分布を得た結果、低温のLS相で、Fe-N間の結合が高温のHS相より強くなることがわかった。最近では、その低温相に532nmのCW光を照射することにより、光誘起相に90%近く転移させることに成功している。現在は、そのデータを解析中である。今後は、ヘリウム吹き付け型の低温装置で40K以下にし、光照射後も準安定であるLIESST相のデータ測定、解析を行う予定である。 また、同様な手法で他のスピンクロスオーバー錯体、Fe(phen)_2(NCS)_2においては、すでにHS相、LS相、光誘起相の電子密度レベルでの構造解析に成功している。この結果は、光誘起相がHS相ともLS相とも異なった結合形態をもつという興味深いものである。 また、遷移金属に対して窒素が6個配位しているという点で共通しているシアノ錯体RbMn[Fe(CN)_6]は、その比較対照として格好の物質である。この系は、低温で光誘起磁性を示すことでも有名である。最近、その高温相から低温相への転移に伴う電荷移動を電子密度解析により直接明らかにした。今後、この物質群においても、その光機能性に関連した結晶構造も明らかにしていく予定である。
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