本研究では、磁場中中性子散乱実験によって報告された磁場誘起反強磁性秩序と超伝導の共存状態についてSTM/STSから調べることを目的としている。磁場下での反強磁性秩序と超伝導が共存するという特異な電子状態の研究から、高温超伝導体の電子状態、さらには高温超伝導の発現機構に関して非常に有用な情報が得られることが期待されている。 今年度までにSTM装置の改良をほぼ終わらせ、今年度から磁場中での低温STM実験が可能になった。今年度は、まずSTM実験で用いるLa系単結晶を様々なホール濃度において作成し、磁場誘起による反強磁性秩序について調べた。磁場中での中性子散乱実験はスイスのPSI研究所・中性子散乱研究室(Mesot教授)との共同研究で行った。その結果、アンダードープのLa系試料では磁場によって反強磁性秩序が大きく増強されることを確認した。現在もその詳しいホール濃度依存性を調べるための共同研究が継続中である。 改良したSTM装置の性能を調べる目的も兼ねて、これまでに多くの実験結果が報告されているBi系高温超伝導体においてSTM実験を行った。その結果、高温超伝導の大きな問題の一つである「ナノスケールにおける超伝導状態と非超伝導状態(擬ギャップ状態)の共存」に関して興味深い結果が得られた。それは、これまで超伝導が不均一とされてきたアンダードープ試料においてもかなり均一な超伝導が起こり得るという結果で、今年度のいくつかの国際会議(Gordon会議:ロンドン、New3SC会議:北京)、及び3月と9月の日本物理学会で報告した。
|