研究概要 |
本年度は上記研究課題を遂行するために必要な計算プログラムを整備し、準備完了した部分から順次研究を進めた。共鳴磁気散乱の計算を行う部分が最初に完成したため、KCuF3,RbMnF3,NiO,およびスピン密度波状態のCrにおけるX線磁気散乱強度の入射X線エネルギー依存性の由来について研究を遂行した。なおYTiO3およびLaTiO3などのペロブスカイト系化合物の軌道秩序・磁気秩序および結晶歪と共鳴散乱スペクトルの関係については、計算プログラムを準備中である。KCuF3、RbMnF3,NiO,およびスピン密度波状態のCrにおける磁気散乱スペクトルの解析からスペクトル構造の由来に関して知見が深まった。具体的には以下の通りである。 共鳴散乱の寄与は双極子遷移過程および四重極子遷移過程まで考慮し、非共鳴散乱の寄与の計算では、電子スピン磁気モーメントによるものをspherical近似で、軌道磁気モーメントによるものをdipolar近似で計算した。RbMnF3を除いてKCuF3,NiO,Crにおいては実験の結果と比較し得る計算結果が得られた。KCuF3,NiOにおけるK-edgeピークは双極子過程によってよく説明することができ、その由来は4p状態のスピン分極と4p軌道のスピン・軌道相互作用によるもので3d状態とは直接には関係のないことがわかった。Pre-K-edge領域での共鳴散乱強度は四重極子過程で生じており3d状態の軌道モーメントと直接関係している。スピン密度波状態にあるCrについてもKCuF3,Nioと同様の計算を行い散乱強度の発現機構を調べた。この計算を遂行するにあたり多層膝系の計算ができるように計算プログラムを改良しまた並列化により高速化を図った。その結果K-edge近傍の共鳴散乱強度は双極子過程により生じており直接的にはCr 4p状態を反映しているのであるが、混成効果を通じてCr 3d状態の軌道モーメントの影響を強く受けていることが判明した。Cr3d状態の軌道モーメントは非常に小さいにもかかわらずこの様な結果になることは大変興味深い。スピン密度波状態にあるCrにおける散乱スペクトルの解析に関しては来年度も続行する。
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