本年度は以下の二つの重い電子系超伝導体について研究を行った。 (1)CeCoIn_5はT_c=2.3Kで超伝導転移を示す重い電子系超伝導体である。この物質の重要な問題点の一つに0.3T_c以下の温度で観測される上部臨界磁場H_<c2>での1次相転移がある。H_<c2>での1次転移は、1960年代に軌道電流の効果を無視し常磁性効果の大きい極限をとったモデル(Pauli limit)で理論的に予測されてはいたが、実験的に観測されたのはCeCoIn_5が初めてである。CeCoIn_5の常磁性効果は実験的にかなり大きいことがわかっているが、H_<c2>での1次転移がPauli limitによるものであるかは自明ではない。本研究ではこのH_<c2>での1次転移の機構を探るため、希釈冷凍機温度で用いることができる静水圧力下DC磁化装置(最大圧力2GPa)の開発を行い、H_<c2>での1次転移の圧力依存性を調べた。その結果、H_<c2>の値は圧力に比例して減少し、凝縮エネルギーは圧力の2乗にほぼ比例して減少することがわかった。この振舞いはPauli limitによって期待される結果と一致し、H_<c2>での一次転移はPauli limitによるものであることを強く示唆する。 (2)PrOs_4Sb_<12>はT_c=1.85Kで超伝導転移を示し、Pr化合物では最初の重い電子系超伝導体として考えられている。本研究では精密DC磁化測定によってこの物質の超伝導相および磁場誘起相について調べた。その結果、零磁場比熱測定によって報告されていたダブル超伝導転移の磁場依存性を明らかにすることができ、T_<cl>(H)曲線とT_<c2>曲線はほぼ平行であることがわかった。磁場誘起相については磁気異方性が明らかとなり、数値計算との比較からこの系の結晶場基底状態は非磁性Γ_1一重項で、磁場誘起相は反強四重極秩序状態である可能性の高いことを明らかにした。
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