フタロシアニン分子系伝導体の巨大負磁気抵抗の解明

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15740202
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 花咲 徳亮 東京大学, 大学院・工学系研究科, 講師 (70292761)
• キーワード: フタロシアニン / 巨大負磁気抵抗 / 分子磁石 / スピン散乱 / 分子軌道縮退 / 分子軌道角運動量 / Fe(Pc)(CN)_2

研究概要

本研究は、フタロシアニン分子系伝導体における磁場誘起による巨大負磁気抵抗のメカニズムを明らかにすることが目的である。まず、伝導特性と磁性の相関を明らかにする上で、フタロシアニン系分子Fe(Pc)(CN)_2の分子磁性を明らかにすることは極めて重要である。PNP[Fe(Pc)(CN)_2]における電子スピン共鳴の詳細な測定から、フタロシアニン系分子のg値(g=3.6〜0.5)が高い異方性を有することを明らかにした[発表論文:N.Hanasaki et al.,J.Phys.Soc.Jpn,72,3226(2003)]。平面状分子であるフタロシアニン分子の分子面内方向では、小さなg値(g=0.5〜1.1)が観測され、フタロシアニン分子面に垂直なCN軸方向に大きなg値(g=3.6)が観測された。これは、4回対称性という高い対称性を分子が有するために、分子軌道が縮退しており分子軌道角運動量が保存されていることに起因している。また、分子軌道角運動量はフタロシアニン分子面にほぼ垂直なCN方向を向いている。分子内の強いスピン軌道相互作用によって、スピンは強くCN軸方向にロックされており、フタロシアニン系分子Fe(Pc)(CN)_2が分子磁石とも呼べる性質を有している。通常の有機分子は対称性が低いため、分子軌道は縮退していないので、Fe(Pc)(CN)_2分子の極めてユニークな特長である。今後の分子磁石としての応用が期待される。
また、Fe(Pc)(CN)_2分子を含む様々な錯体(TPP[Fe(Pc)(CN)_2]_2,(PTMA)x[Fe(Pc)(CN)_2]y(CH_3CN),(PXX)[Fe(Pc)(CN)_2])で、巨大負磁気抵抗にが観測されることを報告した[発表論文:N.Hanasaki et al.,Synthetic Metals,133-134,519(2003)]。これは、Fe(Pc)(CN)_2分子が巨大負磁気抵抗のメカニズムに本質的な役割を担っていることを意味している。巨大負磁気抵抗が磁場方向に対して大きな異方性を有しており、Fe(Pc)(CN)_2分子の対称性と強く相関している。以上の結果から、巨大負磁気抵抗は分子磁性を強く反映していることが分かった。

研究成果

• [文献書誌] N.Hanasaki, M.Matsuda, H.Tajima, T.Naito, T.Inabe: "Contribution of Degenerate Molecular Orbitals to Molecular Orbital Angular Momentum in Molecular Magnet Fe(Pc)(CN)_2"Journal of the Physical Society of Japan. Vol.72, No.12. 3226-3230 (2003)
• [文献書誌] N.Hanasaki, M.Matsuda, H.Tajima, T.Naito, T.Inabe: "One-Dimensional π-d electron in TPP[Fe(Pc)(CN)_2]_2, [PXX] [Fe(Pc)(CN)_2], and (PTMA)x [Fe(Pc)(CN)_2]y(CH_3CN) : electron spin resonance"Synthetic Metals. Vol.133-134. 519-521 (2003)
• [文献書誌] N.Hanasaki, M.Matsuda, H.Tajima, T.Naito, T.Inabe: "Torque study of TPP[Fe(Pc)(CN)_2]_2 (TPP=tetrapheny phosphonium and Pc=phthalocyanine)"Synthetic Metals. Vol.317. 1227-1228 (2003)
• [文献書誌] N.Hanasaki, H.Tajima, T.Imakubo, R.Kato: "Charge-Density-Wave State within Pd(dmit)_2 layer in Two-Dimensional Molecular Conductor (IEDT)[Pd(dmit)_2]"Journal of the Physical Society of Japan. Vol.72, No.9. 2291-2298 (2003)
• [文献書誌] M.Matsuda, S.Ikeda, N.Hanasaki, M.Yoshita, H.Tajima: "Fabrication of Thin Film Using a Soluble Metal Phthalocyanine Salt and Their Photoconductive Properties"Chemistry Letters. Vol.32 No.2. 130-131 (2003)
• [文献書誌] H.Tajima, S.Ikeda, M.Matsuda, N.Hanasaki, Ji-WonOh, H.Akiyama: "A light-emitting diode fabricated from horse-heart cytochrome c"Solid State Communications. Vol.126. 579-581 (2003)