研究概要 |
本研究は、フタロシアニン分子系伝導体における巨大負磁気抵抗のメカニズムを明らかにすることが目的である。磁性と伝導の相関効果を明らかにする上で、磁気的基底状態を明らかにすることは極めて重要である。そこで強磁場下トルク測定を行った。キャパシタンス法によるトルク測定では、有機物質は極めて小さい(〜0.5×0.1×0.1mm)ために、通常の測定では浮遊容量の多大な影響を受けてしまう。そこで、試料とホルダーの間の電気容量を高感度(fFオーダー)に測定するために、ガードリング等でシールド性を向上させて浮遊容量を除去した有機伝導体専用測定ホルダーを自作して測定を行った。 室温から13Kまでは、分子磁性の異方性に起因したトルク信号を観測した。磁化率の測定結果とも一致しており、トルク測定の信頼性を確認した。13K以下では、90度周期の特異なトルク信号を得ることに成功した。分子磁性の異方性によるイジング性の極めて強い反強磁性状態であることを明らかにした。また反強磁性状態のときに、スピン軌道相互作用によって縮退していたdyz, dzx的な分子軌道も整列する"分子軌道秩序状態"であることが分った。さらに6K以下の低温では、自発磁化を反映したトルク曲線のヒステリシスを観測した。ヒステリシス性の詳細な解析から、自発磁化は"1次元伝導軸に垂直な面内"かつ"フタロシアニン分子に配位したCN軸に垂直な方向"に現れていることを確認した。これは、フタロシアニン分子間の空間反転対称性のためにDzyaloshinsky-Moriya相互作用は従来存在しないはずだが、反強磁性状態下の分子軌道対称性の破れによってDzyaloshinsky-Moriya相互作用が誘起され、自発磁化が発生したことを分子結晶の対称性の考察から突き止めた。また、フタロシアニン系分子を用いた薄膜を作製して、発光させることにも成功しており[S.Ikeda et al.,J.Jpn.Appl.Phys.,43,749-752(2004)]、分子磁気光学への展開も推進したい。
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