前年度までの研究により、新しい数値計算のアルゴリズムである、大正準分布の経路積分繰り込み群法を開発し、これまで他のどの理論的方法でも取り扱いが難しかった、次近接ホッピングをもつ正方格子ハバード模型の基底状態の金属絶縁体相図を決定した。 今年度は更に解析を進め、相境界の傾きと相転移に関する物理量の間に普遍的な関係式が成り立つことを見出し、熱力学関係式を導出した。この関係式は、系の相互作用や化学ポテンシャルをパラメータとする相図において、相境界の傾きと物理量が満たすべき関係を与える。物理量として、1次転移の場合には、相互作用に共役な量が熱力学関係式に現れる。連続転移の場合には、ハミルトニアンを相互作用で2階微分した量(感受率)が現れ、感受率や電荷圧縮率を相互に関係づける表式が導かれる。重要な点は、熱力学関係式はモット転移に限らず相転移を示す系に普遍的に成り立つ関係式であり、系の空間次元や温度によらずに成り立つ点である。 モット転移の制御パラメータとして、バンド幅とフィリングがあげられるが、クーロン相互作用と化学ポテンシャルの相図において、1次、および、連続的なモット転移の各場合について、熱力学関係式を導出した。更に、1次元系および2次元系において実現する、モット転移近傍の電荷圧縮率の解析的な表式から出発して、二重占有感受率をはじめとする物理量の解析的表式を導出し、上で導いた熱力学関係式が実際に成り立つことを示した。また、1次元系においてベーテ仮説法を用いることにより、上記の関係式が満たされることを確認した。 この熱力学関係式から、連続的なモット転移において、電荷圧縮率が発散するとき、二重占有感受率も発散し、逆も成り立つことが導かれる。また、熱力学関係式を用いることにより、相境界の形と転移の次数との関係を、存在可能な場合と不可能な場合に分類できることを示した。
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