酸化物高温超伝導体の超伝導は主にCuO_2面が担っている。また、超伝導電子対がd波対称性を持つことから超伝導ギャップ関数が4回対称性を示す。そこで本研究では、磁場を超伝導面に対して平行に印加した場合に誘起されるジョセフソン磁束系の振る舞いをCuO_2面面内異方性の関数として詳細に調べることを目的とした。実験には典型的な高温超伝導体のひとつであるYBa_2Cu_3O_<7-δ>単結晶を用いた。酸素欠損量δを精密酸化熱処理を行うことにより超伝導キャリアドープ量を調整し、超伝導転移温度が90K級の90K相試料のうち最適ドープ、過剰ドープ、および不足ドープの3種類を用意した。各試料の電気抵抗率を温度および角度の関数として最大27テスラの磁場中で測定した。その結果、最適ドープ試料においてジョセフソン磁束系の一次相転移が観測された。一方、過剰および不足ドープの両試料においては二次相転移のみが観測された。これは、ジョセフソン磁束系の相転移が酸素欠損量、すなわち点状欠陥によるピン止め効果に単純に依存しないことを意味している。つまり、他にジョセフソン磁束系相転移を支配するピン止め中心があることになる。そこでジョセフソン磁束ピン止めの面内異方性を詳細に測定した結果、過剰および不足ドープ試料ではd波対称性起因の磁束ピン止めが強く、最適ドープ試料では非常に弱いことが明らかとなった。磁束系の相転移は、ピン止め効果が弱い場合は一次となり、強い場合は二次になることが知られているので、このd波ピン止め効果のキャリア濃度依存性は上記相転移の結果とよく一致する。ここで得られた結果は、ジョセフソン磁束系の振る舞いは超伝導ギャップの4回対称性を反映したピン止めの面内異方性の関数として調べることが不可欠であることを初めて示したものである。
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