研究概要 |
本研究では、遷移金属を含む擬1次元伝導体において、有機分子と遷移金属との相互作用を一軸圧縮によってコントロールすることにより、相転移や伝導のメカニズムの解明に寄与すると共に、新たな物性の開発を目指した。具体的な成果はつぎの通りである。 (1)ハロゲン架橋金属錯体 ジチオアルキル基が配位したPt-Pt-I(M-M-X)鎖構造を持つMMX系金属錯体では、白金原子の価数が高温での平均原子価状態から、低温での電荷分極状態へ転移する。この転移が210K付近での一次転移となって現れるブチル、ペンチル基の場合について一軸圧縮下での電気抵抗を測定した。加圧下では、転移温度が高温側にずれることがわかり、電荷分極状態が安定になることがわかった。これは理論予測と一致する。一方MMX鎖に垂直方向に加圧した際にも転移温度がずれたことから、理論に取り込まれていない配位子とMMX鎖との相互作用も重要であることがわかった。 (2)(BEDT-TTF)Cu_2Br_4 この物質はBEDT-TTFとCu_2Br_4の一次元鎖を持つが、鎖間の相互作用も大きく、むしろ3次元的な伝導を示す。加圧下でもCuの価数は1価のままである。一次元鎖に平行に圧縮した場合には静水圧と同様1GPaで1桁程度電気抵抗が低下するが、それと45度をなす方向ではほとんど圧力依存性が見られない。この結果は一次元鎖方向の移動積分が伝導を決定することを示している。 (3)(DMET)_2CuCl_2 この物質は金属伝導を示し低温で超伝導に転移する。角度依存磁気抵抗から移動積分の擬一次元性を定量的に明らかにした。これは偏光反射スペクトルから得たプラズマ振動数の結果と一致した。 (4)(DMET)_4(MCl_4)(TCE)_2(M=Mn, Co, Cu) 新規に合成されたDMET塩について、圧力下で金属絶縁体転移が抑制されることを見出した。
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