フーリエ変換赤外分光器および回折格子分光器を、固体反射分光実験に用いられるよう整備した。また今年度において可能な限り物性評価・測定を行い、以下の結果を得た。 1.銅酸化物高温超伝導体やペロフスカイト型マンガン酸化物などモット絶縁体近傍の低キャリア濃度域に位置し、強い電子相関を持つ金属の反射分光実験より、これら強相関金属におけるインコヒーレントな電子状態とそこでの伝導機構を検証した。これらの強相関金属では、従来金属がモット極限(平均自由行程が電子のフェルミ波長程度になる抵抗率の値)近傍で抵抗率飽和を示すのと対照的に、モット極限を越えても抵抗率が増大し続けるが、本研究の結果は、これらの物質では高温で光学伝導度から金属伝導に特徴的な周波数ゼロのピーク(ドゥルーデ・ピーク)が消失し、かわりに有限周波数ピークが出現することを示した。このことは、見かけ上金属的な電気抵抗率を示しているとはいえ、伝導機構は従来金属のそれとは異なり、むしろホッピング的であることを意味する。また、この有限周波数ピークは抵抗率がモット極限程度まで大きくなる温度で出現することを明らかにした。これは強相関金属においても依然としてモット極限が重要な物理的指標であることを意味する。 2.アニオンが物性を決める上で果たす役割を明確にし、物質設計の新たな指針を得る目的で、強相関遷移金属窒化物の研究を行った。今年度は窒化物モット絶縁体CrNの合成と元素置換による金属化を試みた。これまでのところ、Crに対してMn、Zn、Gaなど、Nに対してOやP、といった元素による置換を行ったが、絶縁性を破壊して金属化するほどの有効なキャリア注入にはならなかった。来年度は元素置換による金属化をさらに進めるとともに、CrNの単結晶化を試み、その電子構造を光学的手法により調べる予定である。
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