研究概要 |
本研究では電子ドープ型高温超伝導体(Sm,Ce)_2CuO_4における固有トンネル特性の測定から、電子ドープ型高温超伝導体のCuO_2超伝導層における状態密度に関する知見を得て、ホールドープ型との比較から、その電子状態について特に電子-ホール対称性について理解することを目的とした。また、超伝導転移温度以下で反強磁性転移するSmモーメントの影響についても探ることを目指した。 本研究により、電子ドープ型で初めて、10μm角×30nm程度の微小メサ構造の作製とその領域における層間方向の固有トンネル特性の測定に成功した。最近の研究により、電子ドープ型高温超伝導体を超伝導化する際に必要な還元処理により、数%程度の不純物相がCuO_2層に平行にナノスケールで析出することが知られているが、本研究のメサ構造により、この不純物相の影響を排除した固有トンネル特性の評価が可能になった。その結果、まずトンネル抵抗には反強磁性転移温度においてほとんど異常が見られず、Smモーメントの影響は無視できることがわかった。次にCuO_2層の状態密度に関して、Ce濃度が0.14程度の比較的低ドープの試料(超伝導転移温度は20K)において、38K以下の低温で層間トンネル抵抗に負の磁気抵抗成分が存在することが明らかになった。このような負の磁気抵抗成分はホールドープ系のBi系高温超伝導体の擬ギャップ状態に見られるものと酷似しており、電子ドープ型においてもホールドープ型と同様な擬ギャップが存在することを強く示唆する結果である。この擬ギャップは超伝導転移温度以上においても低エネルギー領域に見られる状態密度の減少であり、銅酸化物超伝導体特有の現象として知られており、本結果はCuO_2層のキャリアドープに対する電子-ホール対称性から超伝導機構を議論するにあたり重要な基礎となるものであると考えられる。
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