研究課題
単層カーボンナノチューブ(SWNT)バンドルに吸着された水分子のダイナミクスを核磁気共鳴(NMR)およびX線回折により調べる研究を行った。SWNT内部に吸蔵された水分子の運動特性がSWNT直径にどのように依存しているかについて知見を得るために、それぞれ1.36nm、1.2nmの平均直径をもつ2種類のSWNT試料について測定した。SWNT試料への水吸着過程の、その場観察NMRが可能な測定システムを構築し、水吸着量を系統的に変化させ、吸着水分子の^1H核のNMR測定を320〜90Kの温度領域で行った。室温において水吸着量を変化させながらNMR測定を行った結果、吸着量が増加するにしたがい^1H核の化学シフトは一度減少し、その後増大する振る舞いが得られた。この結果は2種類の水分子吸着サイトが存在することを示唆している。平均直径1.2nmの試料ではSWNT内部の水分子は300K以下で5員環アイスナノチューブを形成し、平均直径1.36nmの試料では280K以下で6員環アイスチューブ、220K以下で7員環アイスチューブをそれぞれ形成することをX線回折実験により確認した。直径1.2nmの試料では、水分子が300Kで液体固体転移し5員環アイスチューブが形成されるためにNMR共鳴線幅がわずかに増大し、NMR共鳴線のピーク強度の減少が観測される。しかし、転移温度以下で観測される共鳴線幅(250K:半値全幅約5kHz)は、アイスチューブ格子点で水分子が自由回転運動をしているモデルでの計算値(24kHz)より小さいことから、水分子の拡散運動による共鳴線の先鋭化が起きていることを示している。6員環および7員環アイスチューブに関しても、転移温度以下でNMR共鳴線ピーク強度の減少が観測されたが、NMR共鳴線は水分子の運動による先鋭化を起こしていることが明らかになった。NMRの時間スケールでは、アイスナノチューブを形成した水分子の運動は凍結しておらず、拡散運動をしていると考えられる。
すべて 2005
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Chemical Physics Letters 401
ページ: 534-538