Mn酸化物AMnO_3(Aは希土類またはアルカリ土類金属)ではMnイオン間に働く二重交換相互作用のため、電荷整列転移などの興味深い現象が観測されている。(Nd_<0.5>Sr_<0.5>)MnO_3は室温では常磁性絶縁体、158〜250Kでは強磁性金属、158K以下の電荷整列相では反強磁性絶縁体である。当該物質では電荷整列転移による結晶の対称性の変化に起因する、多数のフォノンによるラマン・ピークが電荷整列相で観測される。このピークは温度上昇やSr濃度変化により電荷整列相を抑制すると消滅する事は、以前の我々の研究から明らかにされていた。磁場を印加すると電荷整列相は抑制されるのだが、低温強磁場下でのX線構造解析や光散乱測定が困難であったため、低温・強磁場下での結晶構造変化は研究されていないのが現状であった。 我々は本科学研究補助金によって超伝導マグネット内部に組み込むための顕微鏡を開発することに成功した。この顕微鏡を用いて(Nd_<0.5>Sr_<0.5>)MnO_3の光散乱スペクトルの磁場依存性を測定し、磁場誘起金属絶縁体転移を研究した。磁場印加により生じた強磁性金属相では電荷整列が解けるため、電荷整列相に特有のピークが10T以上では消失した。この結果は電気伝導測定の結果と矛盾しない。磁場誘起強磁性金属相と零磁場高温での強磁性金属相は、同じ対称性を持つことが分かった。7.5Tでは昇磁場過程と降磁場過程との間でヒステリシスが観測された。電気伝導測定では、降磁場過程での準安定強磁性金属相が0Tまで残っていたが、光散乱測定では5Tで電荷整列層が結晶全体に復活した。この違いは測定のタイムスケールの違いによると結論付けられた。
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