研究概要 |
斜方晶歪を持ったMn酸化物(RE,AE)MnO_3(REは希土類、AEはアルカリ土類金属)ではMnイオン間に働く二重交換相互作用のため、巨大磁気抵抗(CMR)や電荷整列転移などの興味深い現象が観測されている。(Eu_<0.6>Sr_<0.4>)MnO_3は低温で弱磁化相-強磁化相転移を伴う磁場誘起絶縁体-金属転移を起こす。この磁気転移の前後で結晶の対称性Pnmaは変化しないものの、Mn-O-Mnボンド角の変化による格子定数に跳びが見られる。最近の80K以上でのメスバウアー分光による研究では、MnO_6八面体のヤン・テラー歪の短距離秩序(JT polaron)の存在が指摘されている。 我々は昨年度本科学研究補助金によって開発した超伝導マグネット内部に組み込むための顕微鏡顕微鏡を用いて(Eu_<0.6>Sr_<0.4>)MnO_3多結晶試料の光散乱スペクトルの温度、磁場依存性を測定した。測定に先立ち本科学研究補助金の一部を用いて、超伝導マグネット内部の試料位置を微調整できるように、XYZステージを設置する改良を行なった。又、超伝導マグネットを動作させるために必要な液体ヘリウムを本科学研究補助金で購入した。 15Kでは500cm^<-1>以上にMnO_6のPnma歪によるbending mode, JT modeが観測された。昨年度測定した(Nd_<1-x>Sr_x)MnO_3の電荷整列相での光散乱スペクトルと比較すると、フォノンの寿命の逆数で与えられる、光散乱ピークの半値幅が非常に大きい。この事はJT polaronによるPnma歪が時間的に揺らぎ、それによりフォノンの寿命が決められていると解釈される。半値幅よりフォノンの寿命は10^<-11> sec程度であると見積もられるが、この値は中性子回折実験より見積もられた値と同程度であった。また、30K,2Tの条件では、500cm^<-1>付近のピークの形状が変化する。この事は磁場誘起絶縁体-金属転移と関係すると考えられる。 現在は測定データをまとめて、論文を作成中である。
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