パイライト型コバルト硫化物CoS2は強磁性転移温度Tc〜120Kの遍歴電子強磁性体である。このCoS2は硫黄(S)サイトをセレン(Se)で置換、又は圧力を印加することによりTcが減少し、さらに磁気転移が二次転移から一次転移へと変化することが知られている。本研究ではCoS2の磁気転移と格子構造との相関を明らかにするために、放射光粉末X線回折実験を行い構造パラメーターの温度・圧力変化を詳細に調べた。以下に得られた結果を示す。 1.放射光実験 放射光低温・高圧粉末X線回折実験はSPring-8のBL22XUに設置されたダイヤモンドアンビルセル用回折計を用いて行った。低温・高圧実験用にデザインされた冷凍機(クライオスタット)を使用し、2GPa、4GPaにおける50(20)Kから200Kの温度依存性と50Kにおける15GPaまでの圧力依存性の測定を行った。試料は単結晶を細かく雷りつぶしたものを使用した。均一な強度分布を持つデバイリングを得るために作製条件を変えた粉末試料をいくつか用意し、最適なものを選択した。 2.結果 得られた回折パターンに対してRIETAN-200eプログラムを用いてリートベルト解析を行い、構造パラメーターの温度・圧力変化を調べた。温度低下に伴い格子定数は減少していくがく強磁性転移温度π近傍において格子定数の僅かな増大が観測された。これは常圧における強磁性転移(二次転移)では観測されなかった現象であり、この系では圧力下で現れる一次の磁気転移で磁気体積効果が起こるということを示している。さらに、50Kにおける格子定数の圧力依存性ではおよそ5GPaに変曲点があることがわかった。この変曲点が強磁性一常磁性の転移圧であると考えられる。また圧力の増加に伴いこの変曲点でS-S距離の増大が観測された。前年度に行った常圧の温度依存性の実験では強磁性転移におけるS-S距離の減少が観測されており、この系の強磁性転移はS-Sダイマーの大きさと関係があるということを示している。この強磁性とS-Sダイマーとの関係は本研究によって初めて示された結果である。
|