本研究では、現時点では高分解能X線非弾性散乱による電子励起の直接観測はできていない。この理由としては、2つ考えられる。一つは散乱断面積の問題、一つは試料の問題である。前者に関しては、理論的に言われている散乱強度から見積もると第3世代光源を以ってしても、困難なほど小さな散乱断面積が予測されている。後者に関しては、観測を主に試みた物質群がペロブスカイト型構造の結晶であったことに起因していることが傍証として挙げられる。高温超伝導化合物をはじめとするペロブスカイト化合物は、これまで得られた結果を総合すると、総じて非弾性散乱スペクトルにおける弾性散乱ピークの強度が他の化合物に比べて著しく強いことが特徴である。この弾性散乱ピークは、完全結晶(もしくはそれに近い)といわれるシリコンやダイアモンドではほとんど観測できない。このことから、現状で最も良いといわれるペロブスカイト化合物であっても、シリコンなどに比べると著しく結晶性は劣っていると判断される。この結果は、確かにこれらの物質群は興味深い物性を示すが、散乱強度の弱い電子励起の直接観測には向いていないと判断される。このため、他の系でこれらの観測を次年度引き続き試みる。しかしながら、高分解能X線非弾性散乱を用いた相転移に関する励起の観測としては、銅酸化物高温超伝導体やMgB_2において、これらの超伝導体に共通する現象が観測された。これらの化合物では、銅酸化物のCuO_2面およびMgB_2のB面の振動モードの分散関係が超伝導と相関があるということが明らかとなった。特に、銅酸化物高温超伝導体では、フェルミ波数に相当するゾーン・バウンダリーにおいて、光学モードのソフト化が顕著に観測されることが明らかとなった。また、(LaSr)_2CuO_4やMg(BC)_2においてSrやCのドーピング量による超伝導転移温度の変化に伴って、ソフト化の割合が変化することも明らかとなった。
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